ちょうど1年前、初めて国内の大きなテック・カンファレンスに行ったときの話。業界歴が浅いために知り合いがおらず、完全ぼっちで参加した。
セッションをやってる間はライブツイートしたりしながら自然に時間が過ぎる。しかしこれだけ大勢の参加者がいるのに、途中の休憩や隙間時間でびっくりするほど誰からも話しかけられることがなく、自分から軽く話しかけるのも非常に難しく感じる。話しかけるどころかお互いに必死で視線を避け合っている。
そんな孤立感が地味に積み重なるうちに懇親会の時間になった。ギリギリの気力で参加を試みたが、やはりまったく入り込める感じではなく、ものの数分で内心半泣きになりながら退散した。
心が折れて、カンファレンス2日目はもういいや、行くのをやめようと思った。が、私のちょっとした弱音ツイートを偶然見た優しいフォロワーのひとりがDMをくれて、その人に挨拶するためだけでも行ってみようと、2日目の夕方に余力を振り絞って行った。その人は帰り際だったがしばらく立ち話しをしてくれて、とても有意義だった。そして私はまたひとりになった。
しかしこの日、私は懇親会に最後まで参加するどころか、なぜか二次会まで残って知り合いをたくさん作ることができた。
大惨敗の1日目と充実の2日目でいったい何が違ったのか。
私は外国人に擬態したのである。
Gaijin mode
日本語話者とのネットワークを開拓することをあきらめ、英語で英語話者たちに話しかけるスタイルに切り替えた途端、すべてがうまく回りはじめた。
いとも簡単に初対面の人に話しかけることができるし、すぐに距離が縮まるし、話もつづく。輪もどんどん広がる。エネルギーが戻ってきたのでがんばって日本人にも積極的に話しかけてみたが、どうにか話が盛り上がったのがたぶん1〜2人。けっきょくこの日も最後まで日本人コミュニティに片足を突っ込めた感覚は得られなかった。
ここで言っておきたいんだけど、私は人見知りではない。生まれつき社交的なキャラではないのでたしかに対人疲れはあるが、充実感は残るし、社交的に振る舞う術はとうに身につけた。Women Who Code Tokyo ではイベントを自ら主催し、コミュニティをリードする立場ですらある。
そんな人間でも、心がバッキバキに折れて「もう行きたくない」と思ってしまうほど、ゼロからでは入り込みにくい。私は奇跡的に回復することができたが、回復できずにコミュニティへの参加をあきらめてしまう人はどれだけいるのだろうか。
日本語のイベント、英語のイベント、日英混合のイベント、それぞれいくつも参加してきたが、知らない人と仲良くなるのは日本語のほうが圧倒的にむずい。そもそもひと言目を話しかけるのが難しすぎるのでまったく捗らない。私だけだったらごめん。でも私は完全にそう 1 。いつまで経っても、なかなか思うように日本人エンジニアのネットワークが拡大していかない。
ちなみに私の語学力は日英ほぼ同レベルだけど、会話だけは日本語のほうが得意。つまり日本語力の問題ではない。仲良い友達も日本人が多い。英語という逃げ込む場所があるから違いが身にしみるだけで、もし日本語しかわからなかったら自分は人見知りなんだと思うだろう。
余力のある人にお願い
あの半泣きカンファレンスから1年。この1年間、外国人に擬態するというチートを駆使しながら外堀を埋めていったり、ワームホール(日本人コミュニティに入り込めてる英語話者)を探したりしてきた。おかげさまで今回こそ、まだ全身潜り込めた気はしないけど、爪先程度は突っ込めた気がする。それでも爪先レベル。
ただ今回気づいたことがひとつあった。それは心が折れてあきらめるレベルの孤立感を味わっている人がほかにもいるんだと。しかも、一見マジョリティに属してるように見える人(まあ早い話、日本人男性)でもこれを味わってるんだと。
私は日本人のコミュニケーション文化を変えることはできない。そもそもこれは日本語という言語自体の特性にも根ざしてるんじゃないかと思ってるので、なおさらムリ。それは変えれない。
ただ、懇親会でこういうことを心がけてくれるときっと何倍も捗るはず、っていうのをいくつか挙げるので、よかったら試してみてほしい。特に、その場にもう知り合いがいて気持ちに余裕がある人。特に、コミュニティに入り込めてる人。特に、コミュニティの中枢にいる人。
1.会話の輪に他人を取り込む
あなたが誰かと会話しているときに、すぐそばで他人がこっちに視線を向けているのに気づいたら、目配せしながら身体の向きを調整して、その人が入りたければ入れるスペースを空ける。
2. 入ってきた他人をすぐに “承認” する
その人が入り込んできたら、会話の途中であっても目を合わせて笑顔で会釈でもしておく。会話に隙ができ次第、その人に声をかける。なんて言うかは流れによる。話の途中だったなら、「○○○の話をしてたんですよ」とか。「どう思います?」とか振る。輪の中の全員を軽く紹介するのもいいだろう。だいたい、会話の輪にはゲームでいう “親” みたいな人がいて、その人が主に会話をリードしている。あなたがその “親” でありそうな気がしたら、これはあなたの役回りだと思ってほしい。
3. 完全ぼっちにはできる限り「紹介土産」を与える
もし顔見知りがひとりもいないという完全ぼっちに出会ったら、誰でもいいからその会場にいる自分の知り合いを紹介してほしい。もちろん、そのぼっちと話が合いそうな人とマッチングできたらベストだけど、正直誰でもいいから顔見知りを増やしてあげてほしい。
この3つは、私が思いついたことでもなんでもなくて、こういうのめっちゃうまいな!、そしてクソありがたいな!と感じた懇親会ゴッドから見て学んだこと。考えてみてほしい。勇気を振り絞って会話をはじめることができた相手が、1人でもほかの人を紹介してくれたら、顔見知りの連鎖が永遠につづく。だいたいみんな複数人で輪になってるし、輪の構成員も入れ替わるので、「顔見知りが最低1人いる輪」がどんどん増える。めっちゃ捗る。
英語圏ではマジでよくある、列に並んでる他人同士の片方がなんか独り言を発しただけで会話がはじまって仲良くなる、みたいなことは日本語圏ではほぼ起きない。それに期待してもムリ。
それなら、
- 「輪に加わりたいです信号」を敏感に読みとり
- 多人数のほうからぼっちのほうに声をかけ
- 他人同士が会話できたというこの奇跡を!絶対に!絶やさぬよう!次に!つなぐ!
しかないと思う。べつにお見合いじゃないし親友作る会じゃないし、高望みしないのでとにかくまず顔見知りを増やしたい。これは絶対に私だけではないはず。
余力がある人は、気づいたときだけでもお願いします。
イベント主催者・スタッフの方へ
ここからは、参加者ではなく、さまざまなイベント主催側のみなさんに向けて、 Women Who Code Tokyo がイベントで心がけてることをちょっと共有したい。もちろん我々も完璧に実行できているわけではないし、当日の運営雑務で手一杯かもしれないし、その日はもうコミュ疲れで余力ゼロかもしれないし、自慢とか説教とかそういうのじゃないです。あと普通にうちらもやってるよ当たり前だろっていう人はごめんなさい。
イベントは懇親会がものすごく大事。コミュニティの生死がかかっている。ここで、参加者全員に「自分はこのコミュニティの一員だ」と少しでも感じて帰ってほしい。当然、運営チームがいちばん顔見知りが多いので、初参加者を見分けやすい。そしてネットワークも比較的広いので、紹介土産をしやすい。
なので、懇親会中に手が空いてて気持ちに余力があれば、会場を見渡し、見るからにぼっち化している、もしくはぼっち化リスクの高い人を特定して話しかけに行く。やはりこれも英語のほうがやりやすいが、「運営チームの人」という公式エクスキュースがあると、日本語でも不思議と話しかけやすい。「リーダー」「スタッフ」っていう肩書きがあるだけで、大手を振って積極的な行動がとれる。なんだコイツいきなり馴れ馴れしいなと思われる不安が減るので、距離を縮めやすい。
特に、参加者の大多数と見た目が大きく異なる人、年齢が離れてる人、子供連れなどなど、まあ人によってはぜんぜん余裕で周りと絡んでたりするのでそういうときにわざわざ介入する必要はないが、それでも主催側の人間からどっかのタイミングでひとことでも挨拶があると、「ああ自分もウェルカムなんだな」って少し安心材料にしてくれるかもしれない。本人はぜんぜん何も思ってないかもしれないけど、挨拶をして害はないと思う。私自身がセンシティブな人間なので、気にしすぎかもしれないけど、念には念を入れたい。
がんばりましょう
今まで私に対してこういうちょっとした「手の差し伸べ」をしてくれたり、積極的に人に紹介してくれたりする人たちには本当に感謝してるし、恩はずっと覚えてるし、そういう人たちの行動をもっと真似していきたい。
- あくまで人見知りではない私が日本語では大きな困難を感じる、という話であって、英語話者に人見知りがいないという話ではない。いっぱいいる。ただ、そもそも外国から日本に住み着いたり、超アウェーの海外カンファレンスにわざわざ来てるっていう時点でだいぶフィルタリングされてるとは思う。↩